インバウンドと建築


少し前のことですが、東京駅にある「東京ステーションホテル(THE TOKYO STATION HOTEL)」に宿泊する機会をいただきました。

このホテルの最大の魅力はやはりその建物そのものにあります。駅舎は1914年に建てられたもので翌年に東京ステーションホテルが開業しました。戦禍による休館もありましたが、大正から昭和にかけてまさに東京の玄関口として、そしてインバウンド・ツーリズムの文脈ではまさに日本の顔として外国人旅行者を迎え入れてきました。そして2006年に東京駅丸の内駅舎保存・復原工事のため一時休館。2012年に再開業となったのです。

館内には修復工事の記録や東京ステーションホテルの歴史についての展示も

建築は専門ではありませんので建築としての価値については書きませんが、世界有数の都市東京のターミナル駅にこうしたホテルがあることは、東京がデスティネーションとして成熟化していく上で極めて重要です。日本は「サムライ・ゲイシャ」の前近代的なイメージと、ゲームやアニメ、ファッションといったポップカルチャーで語られやすく、その意味では二極化したデスティネーション・イメージでとらえられていると感じることが多いですが、実は明治から昭和期に育まれた文化や伝統、その時代に誕生した建築について関心を持っている訪日外国人が少なくありません。

客室からは復原されたドーム内のレリーフや人々の行き交う様子が眺められる

こういった話を講演などですると、「SIT(Special Interest Tour)ですね」と言われてしまうのですが、SITという言葉で「ニッチ」として扱うべきではないと個人的には思っています。

少なくとも建築は視覚面でデスティネーション・イメージの定義に大きく貢献しますし、「東京ステーションホテル」のような歴史や立地が伴えば、デスティネーションとしての競争力や成熟化に直結します。私が住む札幌にも「北海道庁旧本庁舎」という建築がありますが、こちらも実はインバウンド・ツーリズムの文脈ではあまり注目されていません。実はこの「北海道庁旧本庁舎」のリニューアルが計画されており、私が所属する観光学高等研究センターも一枚噛んでいるのですが、ぜひリニューアルした暁には、国内外に広くその価値が伝わるような「見せ方」ができればと思っています。

因みに「東京ステーションホテル」のスタッフに「外国人旅行者は多いですか?」と聞いたところ、「意外に欧米の方は少ないんです。アジアのお客様は東京駅に最も近いホテルとして宿泊されていて当ホテルの歴史や建築にはあまり関心を持たれていないようです」とのこと。

ホテルという「サービス施設」にいかに重層的な価値を見いだし、それを魅力として売り出せるか。

3,000万人、4,000万人という数字の議論が先行しがちですが、日本のインバウンド観光振興の課題をこんなところに見た気がしました。

丸屋根ドームに沿ってレイアウトされたユニークな客室。